消化器外科
上部消化管
対象疾患は、胃・食道の疾患です。早期癌から高度進行癌まであらゆる進行度の症例を受け入れています。治療方針については「治療ガイドライン」に準じたエビデンスのある治療をこころがけています。また内視鏡検査にも力を入れており、術前診断から術後のフォローアップまで行っています。
戎井 力 |
《専門:消化器外科、胃癌・食道がんの診断・治療、腹腔鏡手術、がん薬物療法》 |
胃癌について
胃癌治療ガイドラインに準じて、患者様の病状と希望に合った治療選択を致します。消化器内科との連携のもと、早期癌から高度進行胃癌の治療を迅速に実践しています。
(1) 早期胃癌について
早期癌に対しては低侵襲で胃機能を温存した治療を目指します。内視鏡治療の適応症例には粘膜切除術(EMR)や切開剥離術(ESD)を、また適応の無い症例に対しては鏡視下手術を積極的に行っています。
(2) 進行胃癌について
進行胃癌に対しては根治性を追求した、精度の高い手術を目指します。さらには、手術に化学療法や放射線療法などを組み合わせた集学的治療を積極的に取り入れ、成績の向上に努めています。近年増加がみられる食道胃接合部癌に対する化学放射線治療や高度進行癌による幽門狭窄に対するステント療法を実施しています。
食道癌について
(1) 食道癌手術について
食道癌は胃癌や大腸癌に比べて比較的早い段階からリンパ節転移をおこし、転移するリンパ節の範囲は頸部から胸部、腹部と広範囲にわたります。したがって、胸部食道癌に対する手術では、胸部食道と腹部食道を切除(亜全摘)し、頸部・胸部・腹部の3領域のリンパ節を切除します(3領域リンパ節郭清)。食道を切除した後は、胃を細長い状態にし(胃管)、頸部まで引き上げてつなぎ合わせを行います。
(2) 当院の特徴
当院には、食道癌手術の経験が豊富な日本食道学会の食道外科専門医が在籍しておりますので安心して手術を受けて頂けます。また手術以外にも、消化器内科、放射線治療科と連携してあらゆるステージの食道癌治療に対応いたします。例えば、早期食道癌に対しては内視鏡治療を、進行食道癌に対しては集学的治療(術前術後の化学療法+外科手術)を、大動脈や気管・気管支への浸潤のある切除不能高度進行食道癌に対しても導入化学療法や化学放射線療法を組み合わせて完治を目指した治療を行っています。また、非手術的な治療法も実施しています。
(2) 術後QOLの維持のための取り組み
1)胃管ルーワイ再建手術
食道癌の術後は、一部の方に就寝中に消化液や食べ物が口の中に逆流したり、食後に胃管がうっ滞するなどの症状がでることがあります。ひどい場合は誤嚥性肺炎を起こしたり、低栄養から活動性が低下したりします。当院では、胃管再建時に、逆流防止目的に十二指腸を離断し、排泄遅延軽減目的で胃管の幽門部後壁に大口径の胃空腸吻合を作成するルーワイ再建法を行って、これらの予防に努めております。
2)喉頭機能温存手術
食道癌の手術では、術後の嚥下機能が低下します。当院では、嚥下機能の低下を軽減するために、頸部のリンパ節郭清する際にできるだけ頸部の傷を小さくして行っております。これにより、術後のむせや誤嚥が減少します。
下部消化管
担当医:岡村・廣瀨・竹山
対象疾患:大腸がん・肛門疾患(いぼ痔・切れ痔・直腸脱)
1 当院での大腸がん治療の特色
①低侵襲治療(腹腔鏡・ロボット支援下手術)
当院は内視鏡外科技術認定(大腸)の資格を持つ3人の大腸外科医により治療を行い、質の高い手術を提供できるように心がけています。そのため90%以上の症例が3D腹腔鏡およびロボット支援下(ダヴィンチ)での大腸切除術を施行しています。他臓器合併切除などの拡大手術や側方郭清を伴う直腸癌に対しても積極的に腹腔鏡で行っています。
- 腹腔鏡手術:CO2によって膨らませたお腹の中で、モニターを見ながら行う手術です。傷が小さく、体へのダメージが少ないといったメリットがあります。
- ロボット支援下手術:最大10倍の高解像度を有する視野で、鉗子は実際の手の動きが反映されます。腹腔鏡手術よりも、さらに精緻な操作が可能となり、機能温存や根治性の向上が期待されます。
②肛門温存へのこだわり
特に肛門に非常に近い直腸がんにも出来る限り肛門を温存できるよう、「究極の肛門温存手術」と言われる括約筋間直腸切除術(ISR)や、必要に応じて経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)を併用することで、可能な限りの肛門温存と根治度確保の両立を行っています。さらに進行度に応じて、術前化学(放射線)療法など集学的治療を用いることにより、出来る限り肛門を温存できるようにしています。
③高度進行がんへの術前化学放射線療法を含む集学的治療
また、高度進行大腸がんに関しては腹腔鏡によるR0切除(完全治癒切除)にこだわり、切除困難が予想される症例に対しては術前の抗がん剤治療や放射線治療を併用して縮小させ、確実な根治切除と可能な限りの臓器温存を目指した治療を行っています。
④切除不能大腸がんに対する個別化医療と必要時の緩和医療の導入
一方、切除不能進行再発大腸癌の患者様に対しても、病状や治療に関連する遺伝子検査結果に応じて、患者さんの希望と当院での提供できる治療を検討し、ガイドラインに基づいた外来での抗がん剤治療や、可能な限りのconversion surgeryへの諦めない治療を行っています。
またadvanced care planning (人生会議)を含め、必要時に他科や往診医とも密に連携し、適切なタイミングでの緩和医療・在宅医療も行っています。
⑤臨床試験導入施設
当院は大阪大学消化器外科の関連施設であり、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ ※外部サイトに接続します)参加施設でもあります。そのため患者さんの病態によっては現在検討中の新規治療のための臨床試験に登録することも可能です。興味のある方は担当医までお気軽にご相談ください。
2 大腸がんについて
大腸は約1.5mの長さの臓器で結腸と直腸に区分され、主に水分の吸収と便を作る仕事をしています。
大腸がんは大腸の内側にある粘膜から発生する悪性腫瘍で、徐々に外側に向かって発育します。大きくなるにつれ、リンパ節転移・血行性転移(肝・肺・骨など)・腹膜播種(はしゅ)をきたします。
- 大腸がんの疫学
50歳代から年齢とともに高くなります。日本で1年間に新たに大腸がんと診断された人数(罹患数:りかんすう)は、2018年では男性は約9万人、女性は約7万人です。
また、臓器別にみると、大腸がんは男性では3番目に、女性では2番目に多いがんとなります。大腸がんは日本人では直腸がん、S状結腸がんが多いとされます。大腸がんの危険因子は、環境的要因として高蛋白食、高脂肪食、低繊維食、飲酒、喫煙、運動不足などが挙げられています。遺伝的要因として家族性大腸腺腫症やリンチ症候群があります。
- 大腸がんの症状
大腸がんは早期では無症状のことが多く、進行するにつれ症状が出現することがあります。症状は血便、便秘、下痢、便が細くなる(狭小化)、残便感、貧血などで、腫瘍が大きくなり腸管の内腔が狭くなると腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状が出現します。
- 大腸がんの進行度分類(ステージ)
大腸がんの深さ(深達度)、
所属リンパ節への転移の有無、
他の臓器への転移の有無
これら3つの状態によって進行度を表す「ステージ」が決定されます。 ステージは、ステージ0からステージⅣまでの5段階に分類されます。
- 大腸がんの進行度分類(ステージ)
患者さんの進行度に応じて大腸がん治療ガイドライン沿った適切な治療を行います。
①ステージ0・ステージI(軽度浸潤がん)
当院消化器内科の内視鏡専門医による内視鏡治療を行います。
部位や大きさ、深達度に応じて内視鏡的粘膜切除(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。摘出された病変の病理結果によってはリンパ節郭清が必要な場合もあり、その際は外科的治療を追加します。
②ステージI(高度浸潤がん)・ ステージII・ステージIII(進行癌)
外科的手術を行います。根治的切除困難が予想される症例に対しては術前抗がん剤治療や放射線治療を併用します。
③ステージIV(他臓器転移や切除不能進行がん)
転移があっても切除が可能な病変に対しては外科的手術を行います。
切除ができない病変の場合は抗がん剤を行いますが、閉塞や腹痛などの症状を認める場合は手術を行ったうえで、転移病変に対する抗がん剤や放射線治療を行います。 また抗がん剤や放射線治療を行って縮小認め、切除が可能と判断された場合は根治的な手術を行います(conversion治療)。
肝胆膵
肝臓、胆嚢、膵臓に発生した腫瘍(主に癌)に対して治療を行っています。治療としては手術が中心ではありますがガイドラインを基本にした患者さまの病状に合った治療を行っています。
肝細胞癌の場合、手術以外にRFA(ラジオ波)、TACE(肝動脈化学塞栓術)などの治療もあるため、内科、放射線科と連携を図り検討し治療方針を決定しています。また、可能な限り低侵襲な手術も心掛けており腹腔鏡下肝切除術(外側区域切除、部分切除)や腹腔鏡下膵切除術(膵体尾部切除)も積極的に導入しています。しかし、これらの方法では不可能な病状も多く開腹による肝切除、膵切除ももちろん多く行っています。また、進行癌などで当院では治療が困難と判断した場合は大阪大学医学部附属病院などに紹介させて頂いています。
良性疾患の治療では、胆嚢結石や胆嚢ポリープに対する手術(胆嚢摘出術)を数多く行っています。少しでも体の負担にならないように腹腔鏡下手術を原則として行っております。創が一つである単孔式腹腔鏡下胆嚢手術を行う場合もあります。また、抜糸をしなくていいように吸収糸(溶ける糸)を用いた創閉鎖を行っています。術後は4~5日での退院となることが多いですが約3 日で退院することも可能です。